「古事記」には、ウサギやネズミが喋ったり、巨大なオロチが登場するなど荒唐無稽なエピソードが少なくありません。
基本的には神話であり、物語です。
「古事記」には古代の生活、人々のモノの考え方、感じ方を知る手掛かりがあります。
古事記についてまとめました。
現存最古の歴史書「古事記」
現存する最古の歴史書と言われる古事記は「序」に成立に関わる全てが書かれています。「序」は712年に太安万侶によって記されました。
天武天皇の時代には、家(氏族)ごとに独自の歴史が伝えられていました。
国家の歴史書を作成しようと、天武天皇は稗田阿礼に、間違った言い伝えを直した新しい歴史を語り聞かせ、覚えさせました。711年元明天皇は太安万侶に命じて、稗田阿礼が覚えている天武天皇の旧辞を書物にまとめさせます。
朝廷による「日本書紀」「風土記」編纂、その成立背景は?
天武天皇により、681年に法律と歴史書を編纂せよという命令が出ます。舎人親王が編纂責任者で720年に完成しました。
中国の歴史書は「紀」「志」「伝」から成ります。「紀」は皇帝の記録、「志」はその時代の記録で法律、音楽、礼儀、祭り、天文、文芸、地理などがあります。
713年地方の様子を知るため、中央政府から各国に命令が出ました。これが「風土記」の編纂命令です。
「伝」は偉人伝です。功績のあった臣下や皇子たちの伝記が並べられます。「聖徳太子伝暦」や中臣鎌足の「大織冠伝」といった伝記が日本でも作られました。
朝廷には「日本書」という国家の正史をつくろうという流れはありました。天武天皇が発した「法律」と「歴史」の編纂の命令は天皇の死後、718年の「養老律令」の撰修、720年の「日本書紀」の完成という形で達せられます。
「古事記」の偽書説
正史である「日本書紀」や「続日本紀」は「古事記」に関して一切触れられていません。そのため、長らく「古事記」は偽書なのではないかと疑われてきました。
江戸時代の賀茂真淵が古事記の「序」が怪しいと言っています。
太安万侶は「続日本紀」に登場していますが、稗田阿礼はどの資料にも出ていないため実在したかも怪しい人物です。
天武天皇が正式な歴史書の編纂を命じておきながら、自分の側仕えの稗田阿礼に自分の歴史を裏で密かに作成させているところが明らかにおかしいのではないでしょうか。
古事記の世界観
古事記には南方系から伝わった「水平的世界観」と北方系から伝わった「垂直的世界観」の二つの世界観が混在していました。
- 垂直的世界観:北方的、父系的、天皇、弥生的
- 水平的世界観:南方的、母系的、国つ神、縄文的
古事記は上中下の3巻から構成され、上巻は神々の物語で、中・下巻は天皇(大王)たちの物語と二つに分かれています。「日本書紀」の中の神話は30巻中わずか2巻しかないため、「古事記」における神話の割合の多さがわかります。
古代の御霊信仰
「古事記」の神話は出雲神話が3割を占め、国譲りも含めると4割になります。「日本書紀」では出雲神話をほとんど扱っていないため、出雲神話にこそ「古事記」らしさがあるといっていいでしょう。
古代の朝廷において、いちばん恐ろしいのは出雲でした。
「古事記」が語るのは天皇の栄光ではなく、敗者への鎮魂です。無念の中で滅びた者はそれだけで恐ろしく、鎮める必要がありました。
鎮魂のため、「語り」として長い時間蓄積されてきた物語がある段階で文字化されます。神話の音声を文字化したため、漢文でもない日本語でもない、日本語化した漢文で「古事記」は書かれています。
神話に反映される古代の世界観と日本人の起源
「古事記」に現れる神々の系統は、「高天の原」を本拠とする「天つ神」と「葦原の中つ国」を本拠とする「国つ神」です。
イザナミの死後、高天の原、葦原の中つ国に次ぐ「黄泉の国」が登場します。黄泉の国は葦原の中つ国と直接的につながっています。
「古事記」では、高天の原、葦原の中つ国、黄泉の国の三層構造の「垂直的世界観」を以て語られます。
一方、海の彼方の「水平的世界観」へと広がっています。
それが、海の彼方にある「常世の国」と海底にある「ワタツミの宮」、大地の下にある「根の国」です。
南方に起源を持つ神話は縄文的な世界観を持った人たちのもので、水平線上の世界という発想は南方でよく見られます。
一方で、天孫降臨という天皇に関わる神話は、北方から伝わったもので、垂直的な世界観は弥生的といえます。
東南アジア経由で日本に来た人の神話が基にあり、北方系の天皇を中心とした神話が混ざり「古事記」ができました。日本人が混血で雑多な民族であることを表しています。
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